97 / 98 / 99 / 01春 / / 02初夏 / / 03春 / / 04 / 05 / 06 / 07 / 08 / 09 / 10 / 11 / 12 / 13 / 14

はじめに 
1. 別府は偉い 
2. 別府の歴史 
3. 別府の温泉 
4. 別府のアヒル

5. 別府の謎  
秘蔵VTR 

2. 別府の歴史


油屋熊八

 
 国際観光都市別府の生みの親は、昭和10年に73歳で亡くなった油屋熊八というおっさん(写真)です。日本初のバスガイドも、地獄巡りという企画も、なんとあの温泉マークも、熊八さんの発案らしい。

 今でも別府で観光業を営む人の半数は四国などの他県から来た人なのだそうだが、熊八さんも愛媛県出身なんだとさ。若い頃は相場師として大阪で活躍し、その後アメリカにも渡ったが、とにかく浮き沈みの激しい人生だったらしい。別府にやってきたのは49歳のとき。小さな旅館からスタートしたそうだが、その頃には一種の悟りを開いていたようで、私財をなげうち、余生の全てを、ひたすら別府の発展と、観光客へのサービスに捧げたそうだ。
 そういうことって、自分の故郷ではなかなかできないことなんだよね。土地にはそれぞれしかるべき人物を引きつけるパワーみたいなのがあって、引きつけられた人にとってもまた、その新天地こそが自らの力を最大に発揮できる場所だっていうことがよくあるよね。人間と土地の相性みたいな。ゴーギャンにとってのタヒチのように・・・。
 熊八さんがやってきた別府は世界有数の温泉資源と、美しい海と山に恵まれた土地であり、生来のアイデアマンである熊八さんのイメージを無限にかきたてたのであります。

 彼が当時としては珍しく国際感覚を身につけた人物であり、しかもほとんど無償の精神で町の発展に貢献したという事実は、別府という町を考えるときの重要なヒントになると思います。
 たとえば別府では、共同浴場の入口の案内板が日本語、英語、韓国語、中国語で書かれています。もちろんその程度なら、パリのルーブル美術館だって日本語のパンフレットも用意されてるけど、驚いたのは、バスの次の停留所を知らせるアナウンスのテープにまで韓国語が使われていたことです。こんなことはパリでは考えられないし、ましてガソリンスタンドまでセルフサービスの国であるアメリカなんかには金輪際マネできないでしょう。

 考えてみれば、茶道や華道みたいに、日本には「もてなしの心」を極度に洗練させて、芸術の域にまで高めた文化さえあるんだよね。サービス精神において日本人ほど優秀な民族はないんだよ。
 ところが戦争に負けて、アメリカの合理主義に洗脳されてしまった結果、サービスも限りなくマニュアル主義になってしまった。そうなると、「もてなしの心」を可能にできるのは強靭な「プロ意識」しかないわけです。だから、プロ意識というのはその背景に、必ず合理主義がある。日本古来の「無償のサービス精神」とは根本的に別物なんです。
 でも、別府では熊八さんの「もてなしの心」、「無償のサービス精神」が、伝統としてまだ脈々と息づいているような印象を受けました。これは別府が空襲を受けなかったこととも無関係ではないのかもしれないな。
 もっとも、戦後の別府にはかなり多くのアメリカ兵がウロウロしてたそうだから、大正5年創業の友永パン屋(別府グルメ参照)なんか、アメリカ人の需要もかなりあったんじゃないかな。現在の建物は昭和10年建築。ほとんど観光名所になってます。昔風のアンパンやクリームパンを焼いて、1個80円で売っています。
 ちなみに現在の別府公園も、もとはアメリカ人の居留地だったとか。

 塩月堂(別府グルメ参照)の「ゆずまん」を買いに行ったときのこと。店の中にはオバサンが2人と、でっかい犬が2匹いて、遊んでました。るみちんがまた犬好きなもんだから、まんじゅうを買いに来た客であることも忘れて、いっしょになってなでたりしてたんだよね。オバサンもオバサンで、「あんたもやってみなさい」って、ビーフジャーキーをるみちんに手渡したりするんだよ。初めて店に来た客に対して、商売そっちのけで近所の友達みたいな感覚で接してくるんですよ。
 しばらく遊んだあとで、やっとまんじゅうを買ったんだけど、オバサンは勘定を受け取るのも忘れて、また延々と犬の話をしてるわけ。おいらがおそるおそるお金を差し出したら「あら、そうだったわね」みたいな感じ。ほんとに、およそ商売っ気がないわけです。プロ意識ゼロ(笑)。
 このオバサンだけが特別なんじゃないよ。別府の商売人って、ほとんどそんな感じなんだ。
 竹瓦温泉なんて、入浴料が60円だもんなあ。
 もっとも、オバサンが砂をかけてくれる「砂湯」を利用する場合は610円なんだけど、それでも安いと思うよ。すごく広いスペースの休憩所があって、その気になれば60円で1日じゅうテレビ見てすごしてたって文句言われないんだから・・・。


竹瓦温泉の外観と内部

 現在おいらが身を置いている世界も一応サービス業界なんだけど、別府の人には本当に考えさせられました。東京ではマネのできない生き方だと言ってしまえばそれまでかもしれないけどね。