「キャア」のために一日つぶした話

 
何ケ月か前、新潟日報に、エキストラ暦何十年という男の人が、インタビューされていました。
新潟には、東京にあるような、エキストラを集めるネットワークがなかった、でもその人が、都会から新潟へ帰ってきて、そういうネットワークを作っちゃったんだそうです。
うまくいけば、台詞をもらえたり、またはプロの俳優さんから、直接演技指導をされたり、そういう、お金には替えられないいいことがあるんですって。
おもしろそうだなあと思って、私は全盲ですけれどいいんですかと尋いたところ「だれかと一緒に来るのならいいです」とのこと。それで、登録してみました。
いざ登録してみても、なかなか「仕事です」のメールはきません。
やっときても、30代の女性募集とか(汗)20代から50代の男性求むとか(どうしてそんなメールが私にくるんだ、年齢も登録してあるのに)または、私がいこうと思っても、向こうの方で「要りません」と言われたりして、この3月4日、やっとOKのメールをもらえたのでした。
それで3月7日、いってきました。

頼んでおいた時間、9時40分に、ガイドヘルパーさんが家にきました。
うちの母は、こういうのはちょっと、いきそうになかったから(^_^;)
その後タクシーを呼んだんだけど、かなり待ちました。
10分ちょっと待って、タクシーがきました。
なので10時ちょっと過ぎに、ようやく新潟ふるさと村に着きました。
もう既に「スタート!」とか「カット」という大きな声が響いていて、いかにもロケらしいのですが、私が探さなければならない人、オレンジ色のスタッフ証を付けた人がいません。
やっと入口に受けつけがあると分かり、名前を言いました。
ここでもらえるカードのようなもの、これとお弁当を引き替えるんだそうです。
で、もう一枚別のカードがあって、これは帰りに、記念品をもらうためのもの。
この2種類のものは、ヘルパーさんが持っていてくれたので、私はよくさわりませんでした。

「今いる人みんなエキストラです」と聞いてびっくり。
これから座って、民謡を聞いて下さいと言われ、ちょうどよかったな、いいところへ来たと思ったら、その民謡がなかなか始まらないの!
ステージで歌い手たちは待たされ、客席で私たちは待ちました。
だいぶ経ってやっと、新潟甚句が始まり、終わってまた新潟甚句。何度も何度も新潟甚句を聞かされました。
次にアナウンサー役の人なのか
「新潟民謡愛好会のみなさんでした」
みたいなアナウンスを言っているらしいのですが、よく聞えません。
私たちに聞かすためじゃないから。録音のためらしいのです。
その間にもヘルパーさんが私をつついて「坂口憲二が今、エスカレーター上がっていく!ああ下りてきた!あっちにいった!あっちに座ればいかった」と、説明してくれます。

その後、立って2階の越後ビールの所へいけという指示があり、私とヘルパーさんは、エスカレーターで2階に上がりました。
ご存知かどうか、新潟ふるさと村の、バザール館というのは、新潟の名物がいろいろ売っている所なの。
今日いかなかった、もう一つの建物、アピール館は、新潟の映画をやっていたり、いろいろ展示品があります。
「坂口憲二がさわった手すり、さわろう」と、二人でさわってきました。
そもそもこれ、なんのドラマなのよと尋かれても、私も一番最初のメールを消しちゃって、忘れたんだけど、確かフジテレビ系のドラマらしいわよと答える。

ほんとに待ち時間は多いんだけど、その間にちょびっちょびっと、指示があるんです。
2階にいけとか、そっちにはいっちゃいかんとか。
11時半頃、みなさん休憩という大きな声がして、みんないっせいに?お弁当をもらいにいきました。お弁当なんて、暇な人がばらばらに食べると思ったら、違うんですね。もらう前より、むしろお弁当をもらってから走りました。テーブル席が少なくて、じきに埋まってしまったから。テーブル席を求めて、1階に下りました。
噂に聞くロケ弁は、結構美味しかった。ごはんと、コロッケと春巻と、鮭の焼いたのと、マカロニサラダ、きりぼし大根、そうそう、玉子焼きも一きれあったっけ。
唯一トマトとつぼ漬けと、ごはんに乗っていた梅干しは残しましたが。ごはんが多かったけれど、夕食は遅くなるから、がんばって食べました。
「トマト私さわっちゃったけど、要る?」とヘルパーさんに尋いたら、要らないと言うので、そのまま残しました。
お茶はあまり大きな缶なら飲めないなと思ったけれど、受けとってみたら、190CCの小さな缶だったので、飲むことにしました。
食べ終わったのはどこへ捨てるの?と尋いたら、ヘルパーさんが「ちょっと待って、今友達にメールしてるから」このヘルパーさん、女性なんだけど、今日急に坂口憲二のファンになったと言うんです。お友達にきっと、報告しているのね。
それなら私も、ミクシーをちょっとみようと、携帯を取り出したら
「はあいみなさん、時間です」
と声がして、慌てて席を立ったのでした。だからお昼休みは、お弁当とトイレだけにつぶれました。

午後はもう一人の主役?大地真央の登場でした。またまたヘルパーさん感激、そばでみると、ものすごく奇麗だそうです。
始め「知事登場」とか言っていたので、てっきり新潟県知事の、泉田くんが来るのかと思ったら、違うんです。大地真央が知事役なの。
知事の挨拶を、これまた何度も何度も撮り直し、そしてまた動くように指示があって。
「はあいみなさん、先ほど知事の挨拶を聞いたところへ、戻って下さい」
と指示があったので、戻ってみると、おばさん二人が座っているのです。ここはあたしたちの場所だと、おばさんが言いはるのです。
「いえあのだって、私たちは、知事の挨拶の時にはここにいました」とヘルパーさんが言っても、聞く耳を持ちません。そしておばさんが最後にこう言った。
「私たちにどけっていうこと?」
そうですと言ってみたけれど、どうにもならず、おばさんはこわいわねと私が捨て台詞を残して、その場を去りました。
「おばさんなんて言っちゃだめよ」とヘルパーさんは言ってたくせに、その後、事ある毎に
「さっきのババアが一メートル前にいる」
「ババアたちの椅子のある所に、犯人が逃げて走るから、椅子はとりのけられて、ババアたちは立たされた。ざまあみろ」
これみんな、ヘルパーさんが言うのです。私よりよほど口が悪いじゃないの、と思いつつ、こきみよかった。

「不信者」という役をもらったエキストラが、これまたエキストラから選ばれたSPにとりおさえられるシーンや、知事の大地真央を、狙撃するシーン。その大地真央を、坂口憲二が身をもってかばうシーン、と、撮影は続きます。
私たちはちょっと、することがありません。なのでちょっと、お土産をみにいきました。
お米とかおせんべいとか、新潟の定番のものが多い中で、一つ「ほー、新しいな」と思ったのは、レリヒさんカレー。レリヒさんっていうのは、なんでも、スキーを日本に広めた人、新潟県の上越市で初めて滑った人らしいのです。でもレリヒさんで、なんでカレーなんだろう?
あと新潟のバスセンターで売られているカレーも、このふるさと村で売られていました。これ、結構辛いんだよね。
私は実は、コーヒーが飲みたかったんだけれど、コーヒーならいつでも飲めるから、ル・レクチェのジュース420円なりを買いました。ずいぶん高かったけれど、飲みたかったから。ガラス瓶で、大きさは牛乳瓶より少し大きいくらい。もちろん美味しかったけれど、また飲もうとは思いません。なにせ、あの値段だから。
夕方になって、いよいよ私たちの出番?キャーと言って走って逃げるシーンの撮影が始まりました。
「みなさん、キャーと言いながら笑顔です。笑顔だと、このシーンに使えません。笑顔なしで、はいもう一度!」
さっきのおばさんのことでも思い出して、いやな顔をしてみよう。
何度か走って、また元の位置に戻り、また走る。走るったって人間が多いから、前はつかえるわ後ろから押されるわ。
そのうち「人が多過ぎる。おおかたの人は抜けて下さい」
と言われたので、私たちは抜けることにしました。といって、椅子の所には戻れません。みんなが走っている中ほどに、さきほどの椅子があるから。
立ってみていると、70代とおぼしきおじいちゃんも、走っていたそうです。やっぱりみんな、テレビに映りたいのね。
走っていないのは、さっきから泣いている赤ちゃんと、車椅子の男の人だけ。あの車椅子の男性も、エキストラなんだろうか?
そのあいまあいまに、ちょこちょこっとトイレにいきました。
建物の中が暑くて、喉がかわくのです。その分近くて。

やがて6時頃、どうやら終わりらしいという声が、どこからともなく聞えてきて、集合写真を撮りました。
坂口憲二とかと一緒に撮ったのか、エキストラだけなのか、私には分かりませんでした。
写真が欲しい人は、新潟ロケネットへメールするようにという声も聞えたので、先ほどメールしました。できたらパソコンに画像とかでもらうのでなく、郵便で送って欲しいと書いてみましたが、どうなのかな?

ほんとは2階のレストランで、夕食を食べてきたかったけれど、ふるさと村がもう閉館なので、しかたなく家に帰ることにしました。たれかつどん、食べたかった。
帰りのタクシーで、これがまたグルグル迷われちゃって。だって運転手さんは、知ってるというし、もう家に帰れるものと、安心しきっていました。もう2600円で、メーターを止めてもらいました。
「あんたたちその、キャーを言うために一日つこたんかね。血液型はO型らね?出たがりらろ?」
運転手さんにそう言われ、むっとしつつも当たって大笑いでした。
降りる時に「テレビみてね」と言ったら、だれがみるかと言われ、今度はほんとうにむっとした。お客に対する口のきき方じゃないよね。さんわ交通、あまり乗りたくない会社だと憶えました。

ちなみに、もらった記念品というのは、ボールペンと、小さなハンカチタオルでした。
ヘルパーさんはどうするのかなあと思ったら、さっさと自分の分は持っていかれました。こういうものなのかな?

結局今回のは、いつ放送されるか分からないドラマでしたが、坂口憲二が出ているっていうことで、よかったらみなさま探してみてね。だから、犯人は書かないでおきます。
ちょっとは頭にくることはあっても、まあまあ楽しかったので、またこういうチャンスがあったら、いってみようかと思います。