ボルゴの旅 4日目

 
6月21日。
モスクワへ来たら、あの悩ましい無言電話がぴたっと無くなり、日本を出て初めて、ぐっすり眠れました。
このホテルはすっかり変わってしまったのに、一つだけ変わらないものを発見。
朝ごはんの後に飲むコーヒーです。
私は13年前、ここのコーヒーが好きで、部屋で暇な時間に、わざわざ1階へ飲みにきて、5.000ルーブル(当時でいう100円)を払って飲みながら、ついでにロシア語も話したいなあ、だれかロシア人が声をかけてくれないかなあと、ぼやっと座ったものでした。
私が美味しいっていうことは、普通の人には美味しくない、あまりきつくない、苦みの足りないコーヒーです。

10時前にフロントで待っていると、今日からのガイド、アナトーリーさんがきました。
始めに結論を書いてしまうのもあれだけど、このアナトーリーさんが、今までで一番、気の合わないガイドでした。
まずは両替です。ボルゴグラードで替えた300ドルを、ほとんど使ってしまったので、今度は円で、と思ったら、このホテルでは円の両替ができませんでした。グム百貨店だったか赤の広場では、円で両替できる所もあるらしいですが、ともかく今はだめとのことで、ドルを両替しました。
そして、ホテルのすぐ近くにある、懐かしいイズマイロボ市場へいきました。
ここにも13年前に行って、迷子になった、思い出の?市場。
ところが13年前には、食べ物も確かあったのに、今はもう完全なのみの市。
そのがらくた、いえ古道具が、所狭しとおいてあって、歩くことすらままなりません。
ああ、いくんじゃなかった。
唯一いいなあと思った「モスクワ郊外の夕べ」のオルゴールも、高さが15センチくらいあって、持って帰るにはちと大きいので、しぶしぶあきらめました。ワシーリー寺院の形をしていて、あれで小さかったら最高なのに。
市場は早々に出ることにして、一度ホテルで休もうと歩いていたら、昨日のあげパン発見。
というか、鼻が教えてくれました。
25ルーブルで、昨日のボルゴグラードのより高いけれど、昨日よりも大きなパンでした。
アナトーリーさんには、そんなの食べちゃだめ、道で売っているものはだめと言われたけれど、昨日のアンナさんは何も言わなかったもん。ホテルのカフェにも同じものがある、今みてきたとアナトーリーさんは言うけれど、ホテルにはこんないいにおいしなかったもん。
パンを買って、ホテルのロビーで食べました。
美味しかった! ガイドより、鼻の言うことをきいてよかった(笑)

次は、ゴーリキー公園へいきました。
モスクワの地下鉄は、完全にカード式になってしまい、昔みたいにコインを入れる楽しみがない代わりに、アナトーリーさんが1枚のカードを買って(もちろん、お金は私の母が出します)その1枚のカードを3回機械に通して、それで3人が乗る、というやり方をしました。この地下鉄のカード、結構何枚も買ったので、こんなことなら、3人で1枚ずつ買えばよかったとも思いましたが。
雨が降り出しました。「20日は雨が降る」という真野さんのメールで、傘を持ってきたのですが、その傘が今日、出番になりました。まさか遊園地にいく前に降らなくても(汗)
「日本のこうらく園や豊島園に比べたら、恥ずかしいような遊園地ですよ」
アナトーリーさんは、ゴーリキー公園のことをそう言ったけれど、いいんです、私もう、こうらく園とかで一日遊ぶ体力はもうないんです、ロシアの遊園地で遊んでみたいんですと言って、連れてきてもらいました。
入場料を払ったところをみると、雨でも営業しているんだな?よかったよかった。
中に入って、まずおもちゃの汽車に乗りました。これは200ルーブル、あらら、入場料で乗れるんではないのね。「ロシア人には高い値段だ」と言って、ガイドは乗りませんでした。日本人にももちろん高い値段だけれど、もう乗りたいので、母と二人で乗りました。1分くらいで終わるのかと思ったら、何分かかけて遊園地を一周りした様子。乗ってよかった。
次はジェットコースター、はこわいからやめて、ボートに乗りました。
これは、ちょっと激しいというので、母は乗らず、アナトーリーさんと乗ることにしました。
ボートが「ダーン」という感じで落ちるところは、もちろんこわかったけれど、もっとこわかったのが、アナトーリーさんの手引きでした。前に歩いてと言うから歩いたら、目の前に椅子があったり、私をおいていこうとしたり。ボートに乗ってからも、私を立たせて、そのままにするから、どうするのかなあと思ったら、そこがもうボートの座席で、遊園地の従業員さんに「座って下さい」とロシア語で言われたりして。座るんなら教えてくれ(汗)あれは「見えない人の手引きが初めてだから」だ
けが理由ではないと思う。ペルーにいった時の添乗員さんも「見えない人との旅行は初めて」と言っていたわりには、普通に歩ける手引きでした。
メリーゴーランド系のものに乗るのはあまりにつまらないし、ジェットコースター系はちょっとこわいので、あとは適当な乗り物がなく、それにそろそろ疲れてきたので、遊園地を出て、カフェでお昼にしました。
ショコラーテュニッツァ(その店名を、その後何度もみかけました、お店が多いんですね)という名のカフェで、昨日美味しかった、挽肉入りのブリンヌイを食べ、アイスコーヒーという名の...ぬるいコーヒーを飲む。
ちょっと時間があったので、3時頃までそこでうだうだして、それから地下鉄で、トレチャコーフスカヤ駅にいき、ここからパステルナークのマンションが見える、という所を通る。
ドクトル・ジバゴは私は読んでいないし、映画も字幕だったから、ちゃんとみなかったんだけど、まあいいや、連れていってくれたので、仕方なく歩く(汗)
そしてしばらく歩いて、ロシアの声の放送局に着きました。
約束の時間には早いので、当然?日向寺さんはいません。
事務所のような所でしばらく待っていると、あらら、昨日お会いできなかった菅さんがいらっしゃいました。わー、かわいい(汗)いえ、お顔は見えないけれど、そういう気がしました。
昨日は待ち合わせ場所にちゃんといらしたのに、携帯の充電機がこわれて、事実上?行方不明になっちゃった菅さん、今日やっとお会いできました。
日向寺さんが来るまで、お茶を飲んでいて下さいということで、コーヒーハウスというカフェに入り、アナトーリーさんは帰っていきました。
菅さんにメニューを読んでもらい、リンゴジュースを注文して待っていると、日向寺さんがいらっしゃいました。
まだ夕食の約束には早いので、カフェで時間をつぶす。
え、お茶を飲んでばかりだって? いいのいいの、午前中は体力的にも精神的にも疲れたから(笑)

5時半過ぎにカフェを出て、そこで菅さんとお別れし、日向寺さんと母と3人で、トラムに乗る。
よかった、また違う乗り物に乗れました。外国で公の交通機関に乗るのは、いつも大好きだ。
トラムを降りてからは、地下鉄でいく方法もあるんだけれど、そうすると駅から夕食のお店が遠いので、タクシーで「フ チムナーチエ」(暗闇の中で)」というお店にいきました。
まず、食べるものを決めなくてはいけません。
白いメニューというのがあって、これはお任せ料理、赤いメニューが肉、緑のメニューが野菜、青いメニューがお魚料理です。
私は赤、母が緑、そして日向寺さんは白と決めて、次に店員さんの説明が始まりました。
それを日向寺さんが日本語に訳してくれました。
ここは、全ての灯りを遮断して、暗闇の中で食事をする店。昨年くらいにできたんだそうです。
ロシア語の説明で少し聞きとれたのは
「暗闇に入ってからは、階段等は一切ありません」と言っているのだけ聞きとれました。
荷物を預け、携帯や時計など、光りを発するものは特に、身体からはずします。
次に目の見えない人が、実際にお食事をするホールに連れていってくれるわけだけど、小さい時の汽車ごっこみたいに、みんな前の人の肩につかまって、ホール内に入ります。
椅子やテーブルの間をぬって、自分の場所とおぼしき所へ来たら、一人ずつウエイターさんが座らせてくれます。その座らせ方も、見えない人がやってもらって「座りいいな」という感じのやり方で(まず、手をとって椅子をさわらせる)気配りがいき届いています。
テーブルの上のフォークやナイフの場所は教えてくれるので、あとは水を探して、ペットボトルからコップにつぎ、見えないけどかんぱいしてみました。ここでは、アルコール類は出せないそうです。
私の向かいに日向寺さんが座り、私の左に母が座りました。そして私の右は、違うグループの知らない人なんだけど「こんにちはお隣りさん」とロシア語で言ってくれたので「こんにちは」と言いました。
やがて前菜が出てきました。これは3人とも、メニューが同じみたいで、パイのようなものの中に、グラタンの入ったやつが、ものすごく美味しかった。あとは、茄子のいためたやつとか、トマトとかレタス、ゆで卵がありました。
食べ終わったらどうするのかなあと思ったら、やがて下げてくれます。
あの、トマト残しちゃったから、バランスよく持ってね、とロシア語でうまく言うこともできず、でも上手に持っていかれました。
次はどうやって持ってくるのかなあと思ったら、一人ずつ肩をたたかれ「赤ですか?」などと尋かれ、そうですと言うと、お肉の皿がおいていかれます。お肉はちょっと堅くて、残してしまったけれど、豚肉の味で、そして手で持って食べられるよう、ちゃんと...熱くありません。適当に切ってあるので、フォークやナイフで切る必要もありません。それに、どんな変な食べ方をしても、だれにも見えないんだなという、妙?な安心感があり、適当に食べました。
デザートもまた、みんな同じメニューらしく、ただ肩をたたかれて、おいていかれただけでした。これは。冷たいアイスクリームと、暖かいジャムの反対の温度が、ちょっとおもしろかった。びっくりさせたいんだね、と日向寺さんは言っていました。アイスクリームとチーズケーキは、とても美味しかった。
隣りの人が帰っていく時、なにか言ってくれたのに、ぱっと応えられませんでした。なかなか、ぱっと反応できないものだ。
この暗い中では、暖かい飲み物は出せませんとのことで(火傷したら大変ですもんね)ホールを出て上に上がってから、紅茶をいただきました。
日向寺さんといろんな話をして、そしてタクシーに乗って、ホテルへ帰ってきました。