2000/12/1 第9回扇辰落語会



クリックすると飛び出すごん白

 12月1日(金)、上野池之端の水月ホテル鴎外荘にて、第9回扇辰落語会が開催された。
 出演予定のないおいらはおかげさまで何の緊張感もなくこの日を迎えたが、前日から体調がイマイチで、会場入り直前に御徒町の「福助」で田舎しるこを食べる。おいらの活力源はアズキなのだ。
 そんなことをしてたもんで、会場に着いたときにはもう半数以上のお客さんが入っていて、料理が運ばれている最中だった。

 驚いたのは、金屏風の前に、大喜利でもできそうな巨大な高座が作られていたこと。テーブルを二段重ねにしてあるようだ。

 今回のプログラムは、浅賀さんのマジック、柳家ごん白の落語、そしてトリはもちろん入船亭扇辰の落語。


開演のあいさつ。右はスタッフの小川くん

 最初のあいさつで早川席亭は「定期開催としての扇辰落語会は今回でひと区切り付けたい」と述べ、来年はどうなるかわからないと発表。

 前々から席亭は、今回の参加者が30名を切った場合、会の継続を打ち切ると宣言していた。結果、いつものドタキャンもなく、33名が参加。
 しかしこれは出演する噺家2人と三味線の内田さんを含めた人数であり、席亭を数に入れれば30人、入れなければ29人という「誤差の範囲内」で、会の存続についてはフロリダ州最高裁判所でも判断が下せない状況となっている。

 おいらの隣の席のマジシャンASA、ずいぶんお酒を飲んでいる。ほろ酔いかげんの方がうまくできるとのことだが、実はかなり緊張のようす。

 あいかわらずイマイチおいしくない鴎外荘の料理を食べ終り、いよいよ開演。


おなじみ内田さんと星さんの演奏

 今回は照明が妙に暗かった。落語の場合は演者の顔にライトが当たるようになっているが、マジシャンASAのように高座の前に立つと、ぼーっとした光の中での演技になる。これが素人のぎこちない手つきと相まって、なんとも不思議な世界。二次会のとき、作家の月本氏が浅賀さんの芸を、BSデジタル放送の対極に位置する芸術として高く評価していた。

 前座は柳家権太楼のお弟子さん、柳家ごん白(ゴンパク)の「牛ほめ」。
 さすがに寄席で金をとって見せる芸である。彼の素質の高さもさることながら、入門1年でこんなにうまくなるのだから、やはりプロの世界はすごい。
 もっとも、「牛ほめ」はもともと上方の、ボケとツッコミの応酬みたいなネタなので、やはり大阪弁で聴きたいものだ。おいらだったら「穴が隠れて屁の用心」まで言わず、「秋葉ハンのお札貼っときなはれ」で大爆笑させて終わりたい。


初出演の柳家ごん白。顔はプロレスラーっぽい。

 トリの扇辰は「ねずみ」。
 桂三木助(先代)から入船亭扇橋に伝わった噺であるらしいが、扇辰がやると妙に人情噺っぽく、しんみりとした噺になってしまうから不思議。
 これについても月本氏が、「あれはトラですか? あたしゃネコだと思ってました」のサゲに、自民党の加藤事件を思い起こさせるタイムリーなネタだったと独特な評価(笑)。

 扇辰の芸は本質的に「屈託の芸」だと思う。
 それが証拠に、今まででイマイチ魅力に欠けた演目は「目黒のさんま」「長屋の花見」「ちりとてちん」など、基本的に屈託のないネタばかりだった。
 「大工調べ」が秀逸だったのは、やはりそれもマイナスのエネルギーをプラスに転化させて爆発させた部分にあり、基調はマイナスエネルギーなのである。
 こういう芸風というのは、本人の性格や意識よりも、もっと深い「業」とか「宿命」に根ざしているものなのだろうか。

 扇辰落語会が来年も開催されるかどうかは全く未定だが、このまま終りなら、「としちん亭」もこのページをもって最終回となる(笑)。
 終演後「扇辰と写真を撮ろう」コーナーが妙に盛り上がったのは、本当にこれが最後かも?という客の心理の反映だったとしたら、いささか寂しいものがある。
 席亭も扇辰も、客さえ入れば来年もやるって言ってるんだから、「やめないで」の声がもう少し高くてもよさそうなものだが。