1999/8/27 第2回怪談噺の夕べ

 8月27日(金)、上野池ノ端「山中旅館」内にある会席中国料理「古月」にて、去年に引き続き、怪談噺の夕べが催された。(このページではレポートしなかったが、去年は夏に根津の「はん亭」で行われ、席亭・早川光の「もう半分」、入船亭扇辰の「藁人形」が演じられた。)

 今回は客の入りが20名と非常に悪かった。夏であること、扇辰落語会の本大会ではないこと、怪談噺にあまり人気がないこと、素人が挑戦するコーナーがなくなってしまったこと、前回の扇辰の出来があまりよくなかったことなど、さまざまな理由が考えられるが、いずれもある程度予想していたことなので、たまには少人数でのんびり楽しもうということで、会場も、料理がうまいという単純な理由で「古月」を選んだのだった。
 なにしろ第3回のときのレポートを読んでもらえばわかるが、ここは食事でたっぷり2時間かかるので、さんざん飲んで食べて、すっかり客がデキ上がってわけがわからなくなった状態で落語をやらなければならない。早川なりおいらなり、素人の高座が予定されていたら絶対に選ばなかった場所である(笑)。

 演者は第6回扇辰落語会で初登場の柳家小ざると、おなじみ入船亭扇辰。怪談噺の会を含めると8回目になる扇辰落語会において、プロの演者だけでプログラムが構成されるのは初めてのこと。小ざるの力量は前回で証明済みだし、扇辰も前回のようなことはないはず。なんといっても我々素人がやらなくてもいいというのが実に気楽で、今回だけは、完全に一般客と同じ立場で楽しませてもらった。いいな〜、単なる客は!


柳家小ざる

 やはり2時間ぐらいかかった食事タイムのあと、まずは前座の小ざる。
 11月に二つ目柳家三之助の襲名が決まっていて、「小ざる」としての高座を見るのは多くの人にとってこれが最後。二つ目になれば地位的には扇辰と同じ。扇辰もうかうかしてはいられないだろう。
 高座の前にこんなに飲んで酔っぱらったのは初めてという小ざる。控室として用意した部屋がふだんは宿泊用の客室なので、酔いざましにシャワーを浴びてから高座に登場。そのへんの事情を説明しながらのシドロモドロのマクラが、けっこう客にウケていた。前座さんはふだんの寄席ではほとんどマクラをやらないので、今回はいい練習の機会だったはずだが、マクラらしいマクラにならなかったことがかえって初々しさをアピールする好結果になった。これも計算づくだったとしたら、この男、あなどれぬ!
 演目は、前座噺とはいえ絶対的な力量を要する「金明竹」。しかし見事に演じきり、笑わせてくれた。小ざるの芸は実に達者で、しかも鼻に付かないので、エンタテーメントとしての質は非常に高いと思う。熱狂的な「信者」のようなファンは付きにくいタイプかもしれないが、なにしろ基本がしっかりしているし、センスもあるので、こういう芸人さんは貴重である。


入船亭扇辰

 毎度のことながらトリを務めるのは扇辰。
 怪談噺ということで、演目は「応挙の幽霊」。幽霊の絵が好きな旦那に、市場で5円で仕入れた絵をまんまと90円で売ることに成功した古道具屋。翌朝届けに行くことになっている前の晩、件の絵を相手にひとりで酒盛りをしていると、絵の中から幽霊が出てきて一緒に酒を飲むという落語ならではのシュールな噺。はっきり言ってちっとも怖くはない噺だが、扇辰らしく歯切れのいいテンポで、プロの話芸が展開されていく。
 席亭の早川は「幽霊に色気が足りない」と手厳しかったが、落語というのは不思議な芸で、若い演者では色気を表現するのが難しく、枯れたジジイが演じる花魁の方が色っぽかったりする。聴き手のイマジネーションの中にリアリティを創出させる芸というのは、きっと20年や30年の修業ではできないことなのだろう。


素人軍団の秘密兵器・水谷選手

 月刊誌「東京人」の元編集者で、現在無職の水谷さんという人が、今回で3度目の来場。「東京人」8月号の特集「世紀末は落語で笑え」を担当した人物で、一番の趣味が落語であり、寄席通いはもちろん、こうした落語会にも積極的に参加していて、さすがに知識もかなりのものがある。
 彼自身、実は京大(!)の落研の出身であり、ぜひこの会で一席やってみたいという。ようやく素人軍団に強力な助っ人が現れた。席亭は11月に予定されている第7回扇辰落語会への彼の出演を決定。お客さんへの参加表明の挨拶ぶりもなかなか堂に入ったもの。あとは、おもしろいことを祈るだけである(笑)。