1997/11/28 第3回扇辰落語会


開会宣言!

 お座敷でうまいものを食って、そのあと期待の若手落語家・入船亭扇辰(いりふねていせんたつ)の古典落語を堪能しようという「扇辰の会」の第3回が、11月28日、池之端の山中旅館「古月」にて開催された。出席者は過去最高の32名。
 小川とおいらで連敗中の「扇辰に挑戦!」には、ついに座亭・早川光が登場。本業は映画監督だが、今は副業のライターとしての方が有名。しかし11月は全く仕事がなかったそうで(笑)、そのおかげで落語の練習ばかりしていたという。全く練習しなかったおいらでも前回11対8の接戦を演じたのだし、まして早川は会の主催者。早川自身が人選して案内状を出して来ている客ばかりだ。彼も「絶対に勝てる」と公言していたので、おいらもそれを信じていた。

 ひとつ誤算があった。この旅館は、中国で修行した経験もあるという主人自ら包丁を振るう会席中国料理が自慢で、一品ずつ料理が運ばれてくる。5000円の一番安いコースにしたにもかかわらず、 最後のデザートが出てくるまで、楽に2時間をオーバーしてしまった。集まっている客(出版関係者が多い)の中には、こんな機会でなければお互いに顔を合わせることがないような人達も多く、2時間たっぷりかけて飲んだり食べたりしているうちにすっかり盛り上がって、余興の落語などどうでもよくなってしまった人達が続出。落語の前に何人か帰ってしまったり、残った客の中にも、飲み過ぎて落語の最中にイビキをかいて居眠りする人が出る始末。
 しかし、このような予期せぬアクシデントもこの会にはつきもの。とにかく、素人vs扇辰の第3ラウンド、ゴングならぬ出囃子のCDで対決の火蓋は切って落とされた。

 先発の早川は新宿の牛込に生まれ、36年間一度も東京を離れることなく、今も雑司ヶ谷に住んでいる江戸っ子。「東京名物」という本を書いているほど東京を愛し、江戸っ子の言葉に誇りを持っていて、プロとは言え新潟出身の扇辰に江戸落語で負けるわけにはいかない。そこで彼が選んだ演目は先代桂三木助の「化け物使い」。早川曰く、三木助の江戸弁がもっとも正調の江戸弁なのだそうだ。そして三木助、志ん生、志ん朝の「化け物使い」を聴き比べ、早川なりに考証を加えて噺を練り上げ、綿密に再構成して、それをひとつのミスもなく演じてみせた。


とても初高座には見えない早川

 しかし受けて立つ扇辰も、今回は本気だった。マクラで早川の落語を「驚きました。人物描写も巧みで、あと3年も修行すればプロになれるんじゃないでしょうか」とやって客をドッとわかせたあと、なんと大ネタ「大工調べ」で真っ向勝負。なまじ早川が正攻法でやったものだから、そのあとに本気になったときのプロの噺を聴かされてはたまったものではない。食事がすんで帰った人もいたので正確な票数はわからないが、とにかく数えるまでもなく扇辰の圧勝!(註・推定19対10くらい。)


ついにプロの実力を見せつけた扇辰

 早川は、負けた悔しさよりも、ついに扇辰を本気にさせたことと、3回目にして初めて、客が本当に金を払うに値する会を主催できたという座亭としての満足感が上回っていたようで、毎回クソミソに叩いていた扇辰を「きょうは本当によかったよ」と絶賛。

 かくして会は大成功に終わったが、おさまらないのは早川をよく知る友人達(笑)。「つまらなかった」「惨敗だ」と不満爆発!
 さて、来年の扇辰落語会はいったい、どうなってしまうのか・・・?