1986年10月27~29日の3日間、ハミルはたったひとりで初の日本公演を行なった。
東京会場は渋谷のライブ・インという、定員50人そこそこのライブハウス。そこにざっと200人はつめかけただろうか。椅子席の周りを立ち見が何重も取り巻き、後方の客は背伸びをしてもハミルの顔すら見えない状態。あきらめて人垣のうしろで床に座り込み、突っ伏して聴いている女性客の姿も。
初めて生で聴いたハミルの歌声は、どのアルバムで聴くよりも美しいのが印象的だった。あのVdG時代の超ハードな曲「ラスト・フレイム」さえ、ギター1本で切々と歌い上げていた。
また、この時代のハミルがいちばん「いい男」だったのではないか。
アルバム「And Close As This」は、この年の夏(8月7日~9月15日)、ハミルが居を構えるウィルトシャイアのバースにある個人スタジオ"Sofa Sound"でレコーディングされた。これも全編ハミルひとりで、シンセサイザーとMacを使って制作されている。
日本公演の聴衆は、ハミルの「MIDIの弾き語り」というスタイルを、アルバム発売前に生で体験することができたわけだ。そのとき新曲として披露された「シルバー」や「コンフィデンス」はこの世のものとは思えぬすばらしさだった。