2003/3/20 第12回扇辰落語会

 戦争が始まった3月20日、小石川「みの家・伝通院支店」にて「きららの仕事」単行本1、2巻同時発売を記念しての扇辰落語会が開催された。この日は原作者・早川光の誕生日でもある。
 今回は会費が7千円とリーズナブルなので、「とし博ではとしちん亭がいちばんおもしろい」と語るK先生にお誘いのメールを出したところ、「行く」という返事。
 新宿駅で待ち合わせ、JRで水道橋に出て、途中までは歩いたが、けっきょく挫折してタクシーをひろって伝通院へ。新宿から伝通院へは、地下鉄大江戸線に乗り、後楽園で降りるのがいちばん近いことを知ったのは帰りのことだった。
 いつもは客がまばらで、無駄に広い「みの家・伝通院支店」のお座敷だが、さすがに35人集まると狭く感じられた。

 久々に桜鍋を堪能したあと、いよいよ落語会の始まり。
 前座はこの会には初参加の柳家さん角、演目は「初天神」。
 たこ焼きを食べたそうにしている金坊の「タコが言うのよ、食べてほしいって」というセリフに、K先生は「キュータンたこ焼き」がシンクロしてバカウケ状態だった。なにを隠そう、K先生は「まねっこキュータン」のゆかりちゃんのお父上であらせられる。
 しかし、このような特別な客の特別な反応は別として、年配の方ならご記憶だろうが、「タコが言うのよ」という流行語は、田中裕子の缶チューハイのCMから生まれたものだ。(そのCMの前に、田中裕子が「北斎漫画」(1981)という映画に出て、タコとのからみを演じていたことを思い出していただければなお完ぺきである。)
 つまりこのクスグリは、さん角の師匠である柳家さん喬が、20年以上前に、当時の流行語を取り入れたものなのだ。はたして27歳の演者は、それをわかって演ってるのかどうかがおいらには気になった。(どっちにしても、まともに落語を聴く客じゃないね、我々は(笑)。)

 扇辰師匠の演目は大ネタ「こんにゃく問答」。
 真打ちになって、なんだか発声の仕方も変わってきたように感じられたが、気のせいだろうか? それとも花粉症でノドを痛めているのか?(笑)
 いつも書いていることだが、この人は自身のキャラクターがそれほどおもしろいわけではないので、純然たる「芸」で客を笑わせなければならない。したがって、こういう「おもしろい噺」を、ちゃんとおもしろく演れるようになってきたということは、着実に力をつけたことの証明である。
 たしかに人情噺がこの人の切り札ではあるが、切り札というのはたまに演るから切り札なのだ。
 とにかく落語家にとって大事なのは「おもしろい」こと。滑稽噺を磨いてこそ、逆に「扇辰の人情噺はスゴイ」という評判も高まるのだから。

 参加者へのおみやげは「きららの仕事」1、2巻。
 スーパージャンプという雑誌はいささか「エロ本」度が高いので、とりわけご婦人方にとっては「きららの仕事」は単行本向きであると言えよう。
 しかし原作者の意図は、これはグルメマンガではなく「格闘マンガ」であるらしい。
 格闘マンガとしておもしろいということは、読者に「どっちが勝つんだよ!」「早く続きを読ませろ!」と思わせるということに他ならず、したがって目指すところはあくまでも、雑誌の販売部数に直結する「連載マンガ」としての成功にある。
 そうなると、原作もさることながら、重要なのは「絵」だ。
 作画の橋本さんも会場に姿を見せていたが、連載当初は、浦沢直樹のコピーのような「腹に入らん」画風だった(笑)。そういう意味では、名人であるおじいちゃんのワザを受け継ぐ孫娘という設定がなまじ「YAWARA」に似ているのもマイナス点のようにおいらには感じられた(ただしきららは本当の孫娘ではないようだが)。
 しかし、さすがに1年たって、徐々にオリジナリティが開花しつつあるという印象を受ける。
 これには原作の力、たとえば坂巻のような強烈なキャラクターが、それを描く漫画家を成長させる原動力になっている部分もあるに違いない。
 もっとも、おいらが一番好きなキャラクターは坂巻でもきららでもなく、亀岡なのだが(笑)。
 いずれ「亀岡上京す!」と題し、きららのバイト先をさがして歌舞伎町に迷いこんだ亀岡が、風俗店を初体験する話をぜひお願いしたい。(いよいよエロ雑誌じゃん!(-_-;))