2002/2/28 蕎亭大黒屋

 
4月に計画していた別府行きがおいらの仕事の都合で中止になったので、罪滅ぼしにルミチンとデパートへ行く。

まず、お昼は上野から浅草に出て、思い切って「蕎亭(きょうてい)大黒屋」まで足をのばす。
ここは東京でいちばんうまいという噂の店だが、浅草駅から徒歩10分以上の不便な場所にあるため、今まで行きそびれていたのである。

品書きを見ると、せいろが1100円とさすがにいい値段。きっと量も少ないだろうと思い、大盛りせいろ(1500円)を2つ注文する。
最初にそばつゆの入った徳利と、空の猪口が運ばれてくる。
ルミチンはつゆを一気に猪口に注ぎ、「なんで徳利で出てくるんだろうね」とおいらにたずねる。
「そばを浸けてるうちにつゆが薄くなるから、少しずつ注ぎ足すためだよ」と教えてやったが、もはや後の祭りである。

この店について、某ガイドブックには「茨城からそばの実を取り寄せ、石抜き、殻むき、割れ外しなどの作業を丁寧に行ない、自家製粉。毎日その日の分だけ製粉した打ちたてなら、旨くないわけがない」とある。
なるほど麺のコシ、味、香り、のどごし、そしてツユの濃さやダシ加減も全て申し分なし。そば湯もほのかな甘味があって絶品。そばだけを比較すれば、たしかに神田の「まつや」よりランクは上だ。従業員の態度も丁寧で、こんなそば屋が近所にあったら、最低でも週に1回は通ってしまうだろう。

さすがにモリソバだけでは物足りないので、久々に「弁天山美家古」へ行く。

入り口の品書きを見ると、かつて5000円と7500円だったコースは、それぞれ8000円と9500円になり、新たに5000円と7000円のコースも加わっていた。
しかし我々が選んだのは握り6カンと鉄火巻き1本の「松」2000円、握り7カンの「梅」2800円。ここはシャリが大きいので、量的にもこれでじゅうぶんだろう。

カウンターには客が5人ほど。まだ2人座れる余裕はあったが、お好みで注文するわけではないので、奥のテーブル席を希望した。

「弁天山美家古」は、「次郎」や「人形町喜寿司」を知ってからはあえて来ることはほとんどなくなっていたが、実は17年ぐらい前においらの握り鮨の概念を変えた店である。
最後に来たのも十年以上前だから、ルミチンを連れてきたのは初めて。
昔ながらの江戸前寿司の仕事をかたくなに守っている店としては依然として他店の追随を許さぬものがあり、次郎のすしで舌が肥えまくっているルミチンでも「おいしい」と喜んでいた。

テーブル席まで聞こえてくる親方の内田さんとカウンターの客との会話のやりとりは、親切丁寧な受け答えの中にも、あいかわらず自分の仕事に対する自信とプライドに満ちた内容だった。
すし職人は調理の腕のみならず、接客の技術が問われるところがほかの食べ物屋の職人との大きな違いである。
とんでもなく傲慢な人や偏屈な人、あるいはすしを握るより客とのおしゃべりの方が好きな人なども多いすし職人の中にあって、内田さんの接客態度はきわめて優秀だが、難を言えばいささか事務的なきらいがなくもない。それは内田さんが職人としての分をわきまえている証拠でもあろうが、次郎の水谷さんや喜寿司の油井さんの場合は、客ひとりひとりに対する気配りなどに、技術を超えて「人格」を感じさせるものがある。
美家古が悪いわけではなく、水谷さんや油井さんは「すごすぎる」のだ。
おいらが美家古で9500円使おうという気にはなれないのは、すしの違いだけの問題ではない。

地下鉄の入り口からではなく、商店街のビルの階段を降りて、初めて「浅草地下商店街」を歩いて銀座線の乗り場へ向かう。カレーや焼きそばの匂いが漂う中、あやしい占いの館や古銭ショップなどが並ぶ、めちゃくちゃレトロな地下街だった。

銀座で降りて、阪急デパートへ。
ルミチンが「プリーツ・プリーズ」で品定めをしているあいだ、おいらは休憩所で休んでいた。
うちは夫婦そろって質素に暮らしてはいるが、ルミチンは本質的にはぜいたく者で、いざ買うとなったら安いものは買わない主義である。
小1時間もたってからルミチンがやって来て「5万円ぐらいなんだけど、いくら持ってる?」と聞く。
「10万円持ってることは持ってる」と答えると、ルミチンは勝手に「予算10万円」と解釈して、5点購入、勘定は88000円! ユニクロだったらふたりで両手にかかえきれないほど買えるぞ、おい!
あした買う予定だった定期代まで使われてしまったので、また銀行でお金をおろすハメに。トホホ。

一方、おいらは帰りに東京・大丸デパートのCD売り場で、枝雀のビデオとドリームシアターの新譜を「商品券で」購入。えらい違いやなー。
大丸のCD売り場、妙に落語が充実している。おそらく一番は銀座の山野楽器だろうが、あとは新宿紀伊国屋本店も、紀伊国屋ホールがあるだけに落語のCDの品揃えは豊富だ。
大丸の「雪月花」で、小倉みつ豆と、世にも珍しい「寒天モンブラン」を注文。
マロンクリームとアイスクリームと寒天が妙にマッチして、うまかった。