ハピー・ザ・マン物語

 1972
 ヴァージニア州の同じ大学に通っていたメンバーによってHAPPY THE MAN(以下"HTM")は結成された。地元で地道なライヴ活動を続け、のちにワシントンへ進出。

 1974
 リハーサルスタジオにて"DEATH'S CROWN"録音。メンバーは以下の通り。
  ダン・オーヴェン(ボーカル・クラシックギター、パーカッション・ベース)
  スタンリー・ウィテカー(ギター・ボーカル)
  キット・ワトキンス(キーボード・フルート)
  フランク・ワイアット(サックス・フルート・ピアノ・キーボード)
  リック・ケネル(ベース)
  マイク・ベック(ドラムス)
 "DEATH'S CROWN"は38分の大作で、11ものパートからなる劇音楽。意外にもキット・ワトキンスではなく全曲フランク・ワイアットのペンによるもの。ずっと未発表だったが、ついに1999年にCD化された。曲のオープニングこそジャケット通りのダークな印象を受けるが、それ以降は全くHTMそのものの華麗で繊細な世界が繰り広げられる。
 このCDには、さらに1976年にリハーサルスタジオで録音された2曲が収録されている。そのうち"NEW YORK DREAMS' SUITE"は1stアルバムでもおなじみの曲だが、こちらはなんとボーカル入り。
 HTMのデビュー前の音源としてはこの他に、1974〜75年の未発表曲7曲を収めた"BEGGININGS"がリリースされている。いずれもリミックス処理されていて、音質は良好。


  DEATH'S CROWN    BEGGININGS   

 1976
 ARISTAより1stアルバム"HAPPY THE MAN"を発表、メジャーデビュー。
 メンバーは、"DEATH'S CROWN"のメンバーからダン・オーヴェンを除いた5人。
 童話をモチーフにしたファンタジックな作品集で、一般に彼らの最高傑作とされる2ndよりもこちらの方が好きだという人も多いとか。


HAPPY THE MAN

 1978
 2ndアルバム"CRAFTY HANDS"発表。ドラムスがロン・ライドルに交替。
 ジェントルジャイアントの技巧とキャメルの叙情性を併せ持つ、至高のプログレサウンド。
 この年に録音されたワシントンでのライヴ(全12曲)が"HAPPY THE MAN LIVE"というCDになっている。彼らが残した唯一のライヴCDで、未発表の1曲以外は全て1stと2ndからの曲。ドラムスは三代目のココ・ラッセル。


 CRAFTY HANDS   HAPPY THE MAN LIVE

 1979
 1st、2nd共に売れ行きは芳しくなく、録音済みの3rdアルバムの発表を前に、ARISTAから契約を解除されてしまう。「アメリカのプログレ」というだけで偏見を持たれたり、プログレブーム自体が衰退の道をたどっていたことも彼らにとっては不運だった。HTMの活動は停止、事実上の解散となる。
 しかしキット・ワトキンスはキャメルのアンディー・ラティマーに力量を買われ、"I Can See Your House From Here"にキーボードで参加。翌1980年にはキャメルの2度目の来日公演にも参加しているが、その後脱退、ソロに転向。

 1982
 キット・ワトキンス、ドラマーのココ・ラッセルとのデュオで、1stソロ"LABYRINTH"発表。

 1983
 2ndソロ"FLAMES OF MIND"発表。ブラッド・アイン(ギター)参加。
 マイナーレーベルAZIMUTHより、HTMの3rdアルバム"BETTER LATE"発表。
 "HAPPY THE MAN LIVE"のメンバーで1979年に録音されたものだが、1990年に発売されたCDでは、10曲中5曲が1989年にキット・ワトキンスによってリミックスされている。
 もっともフュージョン度の高い作品で、聴き込むほどに味わいが増す。


BETTER LATE

 1985
 キット・ワトキンス、再びココ・ラッセルとのデュオで、3rdソロ"IN TIME"発表。
 HTM的な要素は少なく、リズムもメロディも親しみやすい、穏やかな作風。

 1989
 ソロアルバム"AZURE"発表。圧倒的に美しく、心安らぐサウンド。
 "IN TIME"も"AZURE"も、キット・ワトキンスが自らジャケットデザインを手がけている。


IN TIME        AZURE

 1993
 ソロアルバム"Kinetic Vapors"発表。


Kinetic Vapors

 2曲目などはHTMそのものでホッとするが、クラスター風あり、ヴァンゲリス風あり、ラストの"Escape From Earth"はまるでクラウス・シュルツ。シンセサイザーミュージックの歴史を凝縮したような1枚だ。

 キット・ワトキンスの公式HPを見ると、おびただしい数のソロ作品がリリースされていてビックリ。
 "AZURE"と"Kinetic Vapors"の間に5枚、本作より新しいものはすでに7枚も出ている・・・。