ハルモニア / デラックス(1975)


70年代文化の基調は「暗さ」である。
このことを知らないと、マンガの表紙はアイドルや水着ギャルが飾るのが当然だと思っている人は、古書市で「あしたのジョー」や「アシュラ」連載当時の少年マガジンを見たらさぞびっくりするだろう。
なにしろおいらの学生時代も、明るいヤツは「バカ」の一言で片付けられていたのである(笑)。

しかしおいら自身は、潜在的にはネアカだったのかもしれない。
おいらが初期ジェネシスやVdGGなどの70年代プログレに求めていたものも、ちょうど今ならハリーポッターに象徴されるような英国風ロマンティシズムであって、たしかに明るいとは言えないが、けっして陰鬱なものではなかった。
(イエスは好きだがキングクリムゾンはちょっと苦手なのも、やはりイエス・サウンドの方が本質的に「ネアカ」だったからに他ならないと思う。)

暗いプログレと言えば、単調、重い、暗いの3拍子揃ったジャーマンプログレだ。
時代の風潮として、暗いのは仕方がないとしても、単調さと重さは一般的な日本人には合わなかったようで、おいらもクラウスシュルツの「サイボーグ」やカンの「フューチャーデイズ」など少数の例外を除き、ドイツのプログレはあまり得意ではなかった。

ハルモニアは、クラスターの2人にノイのミヒャエル・ローテルを加えたユニット。
「デラックス」は2枚目にして最後のアルバムであり、マニ・ノイマイヤー(ドラムス)も参加している。
おいらは78〜9年頃にLPで買ったと記憶しているが、これはジャーマンプログレの中にあって、たしかに単調ではあるが、重さや暗さはなく、むしろ軽くて明るい作品だったとさえ言える。(もっとも、どこか微妙に屈折した「奇妙な明るさ」ではあったが(笑)。)

しかし皮肉なもので、数少ないジャーマンプログレのファンは、その重さと暗さゆえに愛好していた人たちだから、このような能天気な作品は、ただでさえ数少ないジャーマンプログレファンからも相手にされないという悲惨な運命をたどってしまう。
おいら的にはわりと気に入っていたのだが、CDに買い替えるまでにはいたらず(いつCD化されたのかも知らないし)、LPも処分してしまったので、四半世紀ぐらい聴いていなかった。
ツタヤで見て、あまりの懐かしさに半額クーポンで借りてきたのだ。

ちなみにおいらは、日本は1978年にインベーダーに侵略されて以来、国民がみんなバカになってしまったという説を唱えている。
その結果、80年代はアイドル全盛、バカ全盛時代となり、みんな踊りながらバブルへと突入していったわけだ。
ところが、バブルがはじけた90年代以降、ハウス、トランス、テクノなどの電子音楽系ミュージックの先駆者として、ノイやクラスターに対する世間の評価が180°変わってしまったのだった。このハルモニアの「デラックス」も幻の名盤として評価が高まっているらしいから、世の中はおもしろい。
しかし今聴いても、やっぱりつかみどころのない音楽には違いなく、「幻の名盤」は大げさだとは思うが(笑)、なんとも形容しがたい独特の心地よさがあり、ジャーマンプログレの中でおいらが好きな1枚には違いないし、たしかに20〜30年ほど進みすぎた音楽だったと言われればその通りかもしれない。