Magenta / Live at Real World

2009年11月21日、Magentaのアコースティックコンサートを収録した3枚組(2CD+DVD)。
場所はあのピーター・ガブリエルのReal World Studioという気合いの入ったもの。
メンバー(ヴォーカル、ピアノ、ドラムス、アコースティックギター×2、アコースティックベース)のほか、女性奏者ばかりのストリングカルテット(オーボエ、ヴァイオリン×2、ビオラ、チェロ)が参加している。

そもそもロックとは、ジャズやブルースを源流とするアメリカ発の音楽である。
これがヨーロッパにおいて、最先端のエレクトロニクスや演劇性などのさまざまな前衛的手法や、逆にクラシックの要素が加えられたロックなどが生まれ、これらを総称してプログレッシブ・ロック(プログレ)と呼ぶ。

EL&Pの「展覧会の絵」のように、プログレムーヴメントの初期においてはクラシックの名曲をそのままロックにアレンジする試みもなされたが、ピンクフロイド「原子心母」、イエス「危機」、ジェネシス「フォックストロット」、IQ「サブタレイニア」など、シンフォニーのような組曲形式の大作も数多く生まれ、とにかく曲が長いこともプログレの特徴(条件?)とされた。

ちなみに、レッド・ツェッペリンのコピーから活動を開始したラッシュは、ハードロックとプログレを融合させてその後のロック界に大きな影響を与え、90年代以降、若い人の間ではプログレと言えばドリームシアターのような「ドラマチックで手数の多いヘビメタ」のことを指す場合もある。

このように、プログレの定義は人により、また地域や時代によってもさまざまで、中にはフォークソングや演歌のようなプログレもあるので(笑)、シンフォニー形式のロックは「シンフォニックプログレ」として区別されているようだ。

実際、プログレミュージシャンの超絶技巧は、伝統的な音楽教育、つまりクラシックによって培われている場合が多い。
エレクトロニクスによって表現の幅を拡げたプログレが、再びアコースティックに回帰していくというのも、ヨーロッパにおいてはわりと自然な流れなのかもしれない。
少なくとも、彼らのクラシックに対するリスペクトは、きっとクラシック音痴であるおいらの想像を超えるものがあるはずだ。

しかし、70年代にリアルタイムでどっぷりとプログレにハマったおいらには、どうしても「プログレ=前衛(=電子音楽)」という固定観念が根強く、また、ロックを特徴付ける音の歪みやノイズがクラシックには存在しないので、やはりクラシックとロックは水と油であるという思いが強い。
「シンフォニーのような組曲形式」というのはあくまでも「形式」の話で、プログレの本質はロックでなければならないからだ。
だから、イエスが交響楽団をバックにイエスの曲を演奏するといった類の試みに対しては常に違和感を覚えていた。それは楽曲がフィルハーモニーによる演奏にも堪えうるほど優れているというアピールでもあるのだろうが、なんだか、ロックがクラシックに対して媚びているような印象を受けてしまうのである。

そのイエスに強く影響を受けたグループがIQであり、このMagentaであるわけだが、本作に関してもあまり期待はしていなかった。「プログレの人って、どうしてもこういうことをやりたがるんだよな〜」ぐらいに思っていたのである。

しかし、メンバーが全員アコースティックの楽器に持ち替え、室内管弦楽とジョイントするというアイデアは正しかった。
Magentaの作品群の中ではもっともトリッキーでエレクトリカルな「Metamorphosis」でさえ、オリジナルよりかっこいい管弦楽曲として生まれ変わっている!

もともと彼らのサウンドには歪みやノイズがほとんど含まれていないせいもあるのだろうが、ここまで完成度の高い「ロックとクラシックの融合」なら納得だ。
クリスティーナ嬢のヴォーカルもさらに円熟度を増し、まだMagentaを聴いたことがない人や、プログレファンじゃない人にもオススメ。
とりあえず「Metamorphosis」も買って、聴き比べていただきたい。
ちなみにDVDで見ると、オーボエの女の人がとてもキュート(笑)。