2003/9/1 天然鰻を食べる

 
 大宮ルミネの「山家」には、たまに四万十川の天然鰻が入荷する。
 普通の鰻重と食べ比べてみたことがあるが、それだけ出されれば特に不満を感じないレベルの鰻重が、四万十川と比べると、なんだか気が抜けたような味で、ボソボソした焼き魚のように感じられてしまう。それぐらい、うまい鰻は圧倒的にうまいものなのだ。

 おいらが毎日巡回している某BBSに、野田岩(東麻布)の天然鰻の話題が出ていたので、矢も盾もたまらず、ルミチンを誘って食べに行く。
 野田岩は今の時期は利根川の天然鰻だが、行けば必ずあるというわけではない。
 たとえ入荷していても、量が少なければ白焼きの分しか捌けないらしい。

 恵比寿から日比谷線に乗り換えるとき、まだ開店前の野田岩に電話を入れてみた。
 「きょうは天然ウナギありますか?」
 「(オバチャンの声)はい、ございます」
 ヤッター!(^o^)
 「それで鰻丼ってできます?」
 おいらは鰻重が好きではない。見てくれがいいだけで、重箱の隅のゴハンつぶが食べにくいし、入れ物が違うだけで鰻丼より高かったりするのも気に入らない。やはりゴハンものは丼に限る。
 「お丼がよろしいんですか? はい、できますけれども、お値段の方はおまかせになります」
 すし屋の注文で「おまかせ」というのは聞いたことがあるが、お値段が「おまかせ」というのは初めて聞いた。なるほど、お店の人は「時価」のことを「おまかせ」と言うのか。
 「ちなみにおいくらですか」
 「4000円になります」
 予想より安い。「山家」の四万十川でも、最低それぐらいはする。
 「じゃあ、それ2つお願いします。今から伺います」
 予約完了!

 野田岩の鰻が食べたいときはいつも日本橋高島屋の特別食堂の野田岩ですませてしまうので、本店に来るのは1999年6月以来、実に4年ぶり。
 1階のテーブル席に案内され、注文を確認。
 オバチャンが再びやって来て、「普通の鰻丼と、中入れ丼っていう、ごはんの中に鰻がもう一段入っているのがございますが、どちらにいたしましょうか? 中入れ丼ですとお値段は違ってきますけれども」と尋ね、ルミチンが少し考えてから「中入れ丼!」と答えた。
 中入れ丼自体は高島屋の野田岩でも食べたことがあるので知っている。
 しかし「天然鰻の中入れ丼」とは贅沢きわまる。
 このときおまかせのお値段はこわくて聞けなかったが、結局、最初に予想していた7000円ぐらいにはなるんだろうなと覚悟した。

 ビールをちびちび飲みながら待つことしばし、いよいよ天然鰻の中入れ丼の登場!

 ど、丼がけっこうでかい。しかも下ぶくれの形状なので、底までけっこう量がある。

 一口、食べてみる。
 これは・・・今まで食べたどんな鰻とも違う・・・(-_-;)
 単純なうまさではない。玄妙この上ない味である。
 川魚特有の野趣にあふれ、アユのような一種のほろ苦さを感じる。
 皮と身の間のところの味など、とても言葉で表現することはできない。
 こういう鰻を食べてしまうと、今まで鰻の味だと思っていたものは、実はほとんど「タレの味」だったということを思い知らされる。
 ちなみに野田岩のタレはさっぱりとした辛口で、あくまでも鰻の味を引き立てるソースという感じ。
 あるいは、鰻よりむしろゴハンに味を付け、鰻との一体感を出す役割が大きいのかもしれない。

 中入れ丼なので鰻自体の量がけっこう多いにもかかわらず、脂がとても軽く、普通の鰻丼のように途中で飽きるということがない。食べている餌と、運動量の違いで、養殖鰻とは全く別物の脂肪が付くのだろう。
 そして、肝吸いに入っている肝の味の濃さにも驚く。

 鰻があまりにもうまくて、おいらはお新香や付け合わせの大根おろしなどには目もくれなかったが、ルミチンは出されたものを全て、もくもくと食べている。おいらの分のお新香まで食べ始めた。
 かんじんの鰻丼を残すようだったらおいらが食ってやろうと待ちかまえていたのだが、なんのことはない、おいらの倍ぐらいの時間をかけて完食した。ゆっくり楽しみながら食べていただけだったようである・・・。

 勘定は、鰻丼1杯5000円だった。1000円アップしただけだったが、これなら7000円取られても納得する。ビールとサービス料10%、消費税込みでトータル12243円なり。

 近くの八幡神社をお参りしたあと、再び日比谷線に乗り、仲御徒町へ向かう。
 いつもなら夏のあいだに5回は食べに行く福助の氷あずきを、今年はまだ食べていなかったからだ。
 なにしろ冷夏だったからな~。

 まだ鰻の余韻冷めやらぬルミチンは、地下鉄の中で「もう大地震が起きてもいい」と言った。

 福助に到着。おいらはシンプルな氷あずき、ルミチンは宇治金時。
 うますぎる・・・。
 福助のゆで小豆は、甘さの中にも塩味をきかせた、独特の味である。
 甘味処というのは甘いものを食べさせる場所には違いないが、客層は基本的に大人なのだから、こういう「大人の味」こそ値打ちがある。
 おいらも、これを食べたあとだったら大地震が起きてもいい。